骸骨

15/04/01
うちの社名が変更になった時の話。

簡単に言うと商標ゴロにヤラレてただけなんだが、担当者が俺になった。

とりあえず相手先企業の連絡先を調べてみると、新宿駅から徒歩数分程度のマンション。

あの辺のマンションはヤミ金と風俗の寮と、893様のペーパーカンパニー(幽霊会社)の事務所兼チンピラ雑居房だらけだから、この時点でおれは893様案件かとため息ばかりだった。

いざやいざやと弁護士と部下ひっ連れて乗り込むと、ヤ〇ザのヤの字もない普通に生活感のある住居。穏やかそうな人が出てきた。弁護士は訴訟か取り下げかを迫った。

簡単に言うと、すでに日本国内で著名となった権利者のある商標を他社や他人が勝手に出願した場合は、裁判には長い費用と関係者の疲労がつきまとうものの、高い確率で無効になるんだ。

特にこの相手は類似した商品を売ってるわけでもなんでもないから確実に勝てる案件ということで弁護士はウキウキしてた。




数日後、俺が寝苦しくて自宅マンションで目を覚ますとなんかドアがどんどん叩かれてた。

「いつ勝ってくれるんですか?二敬遠です」

あれ、いつ野球やってんだ。ていうか俺スポーツは剣道派だぞ?で、よく聞き直すと

「いつ買ってくれるんですか?二京円です」

京なんて単位聞いたことないなぁ、とか思った直後にねぼけから醒めて、なんでこいつがドアの前にいて叫んでるんだ、と気づいてドビクリまくった。

数分後には他のマンションの住人から通報があったみたいで、ドアの前で警察と悶着から被害者からの聴取まで一連のコース体験。

まさか、あんな穏やかそうな人が豹変してあんなマネをするとは思わなかった。家?当然引っ越したよ。

で、引っ越してから2週間ほど平和だったんだが、唐突にマンションの受付から連絡があって、俺を名指しでわめいてるというのがいる。

警備室案件だというから任せたら、さらに数日後には会社から最寄り駅までの通りにあいつがいて、俺に気づくなり

「いつ買ってくれるんですか?今なら99%OFFで200億円にまけておきますよ」

っていいながら迫ってくる。で自分から体当たりしてきて仰向けに倒れこむ。でもって自分で頭を地面に打ちつけながら

「いたーいひどーい!わーわー!おぎゃー」

こんな感じだったかな。

なんか舌っ足らずなしゃべり方に変わってよくわからんかった。もう、定時帰りのサラリーマン達がドン引き。

同じビルの連中が俺とそれを見比べるし、殴ってくるやつなら殴り返せば済むけど、これじゃ何やっていいかわからなくなるのな。

で、こいつが多重人格者だったってことがわかったのは、893っぽい言葉遣いとグレーのスーツに紫色のシャツに黄色のネクタイ締めて来た時。

端的にいうと次の新しい家もバレて襲撃しにきた。幸いトイレの窓が割れる音に気づいて通報した。窓は俺を助けにきてくれるまで保つだけ頑丈だった。

何に使うか考えたくないノコギリやら、窓割る道具やらぶちまけて、家の中で警官ととっくみあいはじめるからほんと怖かったわ。

おまえらも家選ぶときはどんなに部屋が狭くっても、個室でドアが頑丈なトイレと、管理人常駐のマンションを選べよ。

もう、そういう場所でしか暮らせない体になってしまった。