06/10/16
俺がつい先日出会った話を聞いてくれ。
住んでた部屋が手狭になったから、新しいアパートに引っ越したんだ。
昨日いちおう荷解きも一段落して、新居の回りでも散策するかと思って歩いてたとき。
隣の隣のまた隣ぐらいに、屋根が水色の借家が連立してる一角があってさ、その脇の細い道に入っていったら、ババーがハサミ持って歌ってんの。
「ちょっきん、ちょっきん、ちょっきんんなぁ~♪」
とか言いながら、その辺に生えてる雑草の花を切り落としたり、葉を切ったりしてんの。鼻水とかヨダレがもう固まっちゃってて、ノド元のシャツなんてガビガビしてるんだわ。
あちゃー、いかれてると思ったね。
で、あんまり関わらないほうがいいと即座に判断した俺は、露骨にきびすを返して広い通りの方へ戻ろうとしたんだが、気配に気づいて振り返ると、そのババーが追っかけてきてたんだわ。
足引きずってるヤツに追っかけられるのって意外と怖いもんだ。しかもなんかハヒィー!とか口で息しながら、それでも笑ってんの。
でも俺さ、あのバーさん俺に用事でもあるのかと思っちゃってさ、邪険に扱いすぎるのもなぁ…ってそこでむだな優しさを出してみたりしたわけ。
ちょっと止まって、ババー待っちゃったんだよ。逃げときゃよかったんだけどさ。そんでババーが追いついて、俺のソデつかむんだ。
俺が
「なにか用ですか?」
って聞いたらさ、
「ちょっきんにゃあ☆」
って笑いながら俺の指にハサミ入れようとしやがった。
「うわっ!何すんですか!?」
とか何とか言ってババーを振りほどいて逃げたよ。で、すぐ近くの家に飛び込んで、呼び鈴を鳴らしたんだ。
出てきたおばさんにその話をして、警察呼んで欲しいって言ったんだわ。そしたらおばさんが俺の指を見て、
「あぁ~、それのせいだわ」
って言うのね。
あのババーは光る物が好きなんだって。俺はその日、指にでかいターコイズの指輪をしてたんだよ。
その辺の人はみんな、それこそ子供までそのババーには気をつけてるから、今さら通報しなくても…とか言うオバサン。
でもまあヘタしたら指落とされるかもしれないワケだし、危ないことには変わらないじゃん。だから俺は一抹の正義心から、自分で交番に行って話してみたんだわ。
でも
「まぁ、こまめにその辺を回ってみるようにしますね」
ぐらいだった。
よく聞く話だが、やっぱり警察って何かが『起き』ないと、簡単には動けないものらしい。
その数日後にやっぱり同じ場所にババーがいるのを見たんだが、ランドセルの子供がさ、3人ババーの前にいるの。
あいつらアブネーな!と思ったらそのガキども、ババーに向かって何か挑発するようなことを叫んでるんだわ。
「ババーーーッ」
とか
「ウゼー」
とか
「バババッバーッ」
とかよく分からない奇声もあったりして、とにかくものすげーおちょくってんのね。ババーはガキどもをジトッとにらんでるだけで、すぐにガキどもは笑いながら逃げてった。
見ていた俺に気づいたガキが仲間内で目配せして、
「見てんじゃねぇよ!!」
だってさ。
ものすごく不愉快なもんを見たよ。なんつうのかな、もうガキじゃなくてチンピラなんだよね。で、ババーはガキどもがいなくなると、またアレを始めたんだが
「ちょっ…きん…ちょっきん♪ちょっき~ん…」
って結構寂しそうだった。
それだけの話なんだが、なんかこう…メチャクチャじゃね?
とりあえず指を切られそうになったときは、あのためらいのなさに肝を冷やしたよ。
ガキどもも全く悪いって思ってないところが怖いよね。
そのうち
「殴ってたら死んじゃった」
とかいって人を殺しそうだ。
113: 本当にあった怖い名無し ID:nFdre8Po0
年寄りには、躊躇いなくやる人達がいるわ。