聴診器

16/11/23
怖いと思ったことはないけれど、時々思い出すこと。三十年近く前の話。 
医学部附属病院に研修医で勤務していた頃の話。 

ほぼ毎週、土曜日か日曜日は、どこか他の病院の当直に行かされていた。 
一般の病院の勤務医は暦の通りに休むから、誰かが代わりをさせられる。 

その当時に担当していた、重症で危ない患者さんのうちのひとり。 
骨髄異形成症候群の白血病化、40歳台?の女性で、幼稚園生の娘さんがいた。 
不思議と旦那さんの事の記憶がない。いれば、病気の説明や
容態が危ういことを旦那さんに何回も話したはず。




580 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/11/23(水) 01:11:50.40 ID:azq9KZo/.net
いっつも、面会に通ってくるのは娘さんとお母さんのふたり。 
毎日面会に来て、夕方暗くなる前に6階病棟前のエレベーターホールで
バイバイするけど、決まってそのあと、西側廊下の窓際に患者さんは居て、
1階の出口から西にまっすぐ伸びる道に娘さんが出てくるのを待っていた。

娘さんも分かってて、おばあちゃんの手を引っ張って
お母さんが見えるところまで走ってきて、そこからは、
道を南に曲がって見えなくなるまで、ずっとバイバイしてた。 

入院してから3か月は頑張ってくれたけど、限界が来て、
からだも起こせないし、身体や顔にも紫斑がでたり、
出血傾向が抑えられなくなって、抗がん剤投与を断念した。


581 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/11/23(水) 01:12:31.88 ID:azq9KZo/.net
しばらくして昏睡状態になってしまって、今晩か明日かという週末に
当直当番、代わりが見つからない。当日の院内当直当番の先輩も、
自分の患者が危ないので院外当直はできない、代われない、と言われたから、
もしもの時はお願いします、と言うしかなかった。

夕方に病院を出て、当直する病院に着いてから翌日の明け方まで
救急搬送が繰り返し来て、その日の当直医に引き継ぐまでが精一杯で、
タクシーで自分の病院まで戻った。 

白衣に着替えてエレベーターで6階まで上がったけれど、
身体が鉛のように重たくて眼が霞んだ。


582 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/11/23(水) 01:15:10.85 ID:azq9KZo/.net
息を整えながら病棟に向う廊下を歩いていると、途中にある会議室のドアが
半開きになっていて、暗い室内が見えていた。 

休日・夜間は閉まってるはずの会議室につんのめるようにして入った、
部屋にはコクヨ?の長机が並んでいるからそこで横になれる。 
暗い部屋の机に背中から乗り上げた。
背中が喜んでいる快感を感じて、そのまま昏倒するように眠ったと思う。


583 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/11/23(水) 01:18:56.36 ID:azq9KZo/.net
夢にみたのは、子供の頃に両親・妹と暮らしていた団地にあるような集会所の部屋。 
窓の外は薄明りに明るくて、部屋の中は薄暗かった。 

ビニールのござのような畳の上で座っていると、患者さんが、
にこにこ笑いながら入ってきて向かいに座った。 
服を着ていなくて、髪が濡れていて、お湯の匂いがした。 

患者さんの声は聞こえなかったけど、唇の動きは、

「楽になったよ!」

と言っていた。


584 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/11/23(水) 01:21:32.66 ID:azq9KZo/.net
目が覚めて、会議室を出て病棟に入ったら、詰所の看護師さんが
駆け寄ってきて、今朝亡くなったと。 
病室の扉をノックしたら、看護師さんが扉を少し開けて、いま身体拭きが終わりましたと。


585 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/11/23(水) 01:41:12.70 ID:Fc72kLpx+.net
>>584
予感や予想出来た妄想を夢に見たんじゃない? 
寝込むほど疲労困憊していてそれほど気にかけてたんだろうし 
じゃないと気持ち救われないし 
でも患者さんにとっては治りたかっただろうから、都合良く考えないほうが良いと思うけど 
娘遺して死ぬなんて楽になれないだろうし、夢に見たなら仕方ないけど


587 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/11/23(水) 02:08:16.16 ID:azq9KZo/.net
>>585 
ご指摘の通りです。 
数日中に亡くなるだろうことは、同僚医師、看護師、指導医も思ってた。 
臨終に立ち会えないだろう事のうしろめたさはありありと思い出せます。 
その辻褄合わせに、自分の脳味噌がこしらえた演出?だとしたら、 
底が知れないなぁ、と繰り返し思ってる次第です。


589 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/11/23(水) 02:17:55.11 ID:Fc72kLpx+.net
>>587
夜中のテンションで生意気な事言って申し訳ないです 
ほんまに∑(゚Д゚) 
お医者様も万能ではないですし、そんな気にやむ必要もないとも思いますが、
ずっと心に遺っているのは亡くなられた方にとって無駄ではなかったと思いますし 
若い頃の生死に関わる出来事って鮮烈ですよね… 
不謹慎かもですがなかなか面白かったです


590 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/11/23(水) 03:26:32.69 ID:Rtzjuo7H.net
>>587 
せつなくなった 
その亡くなった人、娘さんやお母さんにもお別れできてたらいいですね…


599 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/11/23(水) 23:06:29.35 ID:Wznhui78+B.net
>>585 
遺族としては、死後、ラクになってくれたら、こんなに嬉しいこと無いよ
先立った人は心残りだろうけれど、遺された側としては
ずっと気にしすぎないで、辛い気持ちで居ないで欲しい。 
若くして主人を亡くした自分は、>>584の話が、ただの夢だけでは無いと思いたい。


ほんのりと怖い話スレ その121