クレージー

16/07/13
生前の父が語った昔話。

父は私がまだ幼い頃、会社勤めの傍ら、休日に会社には内緒で訪問販売をやってた。(子供の玩具とか女性向けのファッション用品とか)

母が私を産んだ後大病し、私は祖母の家で暮らし、父は母の医療費のために金稼ぎに奔走してた。

ある時、父は東京から鈍行で半日ほどの某県にセールスに行ったという。商店の少ない田舎町で、売れ行きはわりと好調だったが、スタートが遅かったのですぐに夜になってしまい、その地域の唯一の宿だという民家のような民宿に泊まることにした。

民宿に向かう道の途中、その地域一番の分限者(金持ち)らしい大きくて古めかしい立派な家を遠くに見かけ、

「明日は一番にこの家にセールスかけよう」

と思ったという。

民宿では、寡黙な中年の三姉妹が料理やら布団やら出してくれたという。

酒が入るとお喋りになる父は、料理を下げに来た姉妹相手に、
病気の妻への心配やら、女房子供と離れて暮らす寂しさ、早く手術費を稼いで家族一緒に暮したいという話をした後、

「明日はあの大きな立派なお宅にセールスするつもりだ」

と言ったらしい。

するとしばらくして三姉妹が並んで入って来て、神妙な顔で

「あの家に行くのはやめなさい」

と言ったらしい。

「あの家には私達と同じ年頃の男がいる。あの家の息子だが、あの家は血の近い結婚をするせいかあの男は頭がおかしい。子供の頃から動物を殺したり、他の家の子供を川から突き落としたり首絞めたりした。

お刀自(高齢の婦人)に厳しく躾けられて家族には手を出さずに暮らしてるようだが、あの家に出入りしてた手伝いの娘はある日急にいなくなった。

訪問販売の男があの家に入って行って、一向に出てこないこともあった。

それは何度もあった。

地元の人間もあの家の中には行かない。あの息子と家で二人きりになったらお仕舞だ。だからあんたも行ってはいけない」

という話だったらしい。

三姉妹の厳しい顔を見て、この話は本当かもと思ったと父は翌日すぐ東京に戻ったという。

その後副業も違う仕事に換えた。
結果としてもっと早くお金が貯まり、母は手術し、回復後には何とか家族一緒に暮らせるようになった。

「訪問販売やってると、『知らない人間なんか家に上げたら怖いから』なんて言われるんだけど、『知らない人間の家に上がる』っていうのも怖いよなって気づいたらもうあの仕事は嫌になった。

社長が言ってたんだけど、実際、訪問販売やってて仕事行ったままフラッといなくなる奴は多いらしい。

自分の意志で、仕事に飽きてとかお金や商品持ち逃げしようとかで、
フラッといなくなったとかならまだいいんだけどね。すっかり消息絶った人間にはもう理由は訊けないから」

と言ってた。


69 :名無し 2016/07/13(水) ID:t3A
まあヤクザな人間が多い商売だしね、金絡みの自主的な消息不明も多いだろうけど。
消息不明になっても探す身内が少なそうな業界でもあるな。

しかし本当に昔話みたいな話だね。
ヤマンバの家に行きかけた旅人が村人に、みたいな。


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